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『 Another Side からの手紙　＃２ 』

　午後からの雨がスペイン革ブーツを湿らせ、そんないつもよりも冷え込んだ夜に
僕は「世界一のショットバー」を訪れていました｡

　まだ時間が少し早いためか、狭い店内のカウンターには
僕ともう一人の紳士しか座っていない。
僕は以前口にしたシングルモルトの柔らかなスコッチウイスキーをリクエストしたけれど、
やはり誰かが手放さない限り、そのボトルはなかなか巡って来ないようだった。

　隣の紳士は、十数年物のバーボンをロックで飲んでいました｡
細身の体になじんだスーツに、色褪せたレジメンタルタイ、
少し白髪のまじった風貌に僕はとても興味を抱いていました｡

　グラスの中に輝く多角形の氷が少しずつ溶けだした頃、
僕はその紳士の若かりし頃の話に夢中になっていました｡

　「僕が学生だった頃は、火炎瓶ばかり造っていたんだよ
　　デモに参加したり、毎日抗議行動の練習ばかりだった。
　　ある時から僕は集団に参加するのをやめてしまったんだ。
　　退屈な毎日をやり過ごすために始めた訳ではなかったけれど、
　　他にもっとやるべきことがあるような気がしていたんだ。
　　何の意味があるのかに疑問も抱いていたし、
　　でもその頃は、そういう時代だったんだ。」

　僕は１０代の頃、「３０代以上は信じるな！」というキャッチコピーを
いつも心に抱いていました｡
でも、僕があこがれる時代は、その世代の人々が築き上げた時代でもありました。
そして僕自身も今３０代半ばを過ぎようとしています。

　時代は巡り、変わり、そして繰り返します｡
「今」というのは秒数で約８秒間であると言われています｡
８秒前はもう過去のことなのです｡

　気が付くと、カウンターにはたくさんの客が座っていました｡
店を後にすると、外の雨は少し小降りになっていました｡
僕は紳士を丁寧に見送り、一人家路をたどっていました｡
僕は時々、「時代おくれなやつ」と言われることがあるけれど、
他の人にとって過去の産物が、僕にとっては輝く今であるのかも知れません｡

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〜November 2004　　Ｓ★ＭＯＴＯ〜