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『 Another Side からの手紙　＃５ 』

　８０年代の後半、１４万分の１、ポケットサイズ、その小さな地図から
僕の旅は始まっていた。

　僕は旅の途中で訪れた場所には、赤いペンで地図にガイドを記入している。
展望や路面の状態、雰囲気、交通量や簡単な詳細図、目印、
休憩場所、トイレ、温泉、宿、料金、感想など・・・。
度々訪れる場所は、もう記載できないくらい真っ赤になってしまっている。
地図を買い換えても、それらは全て写し直してきた。
なぜそんなことをしているかというと、想い出として残しておきたいのと、
再び訪れたときにかなり役に立つからだ。

　旅の途中、眠りにつく前に僕はその日のガイドを書き込んでいる｡
疲れて眠い目をこすりながら、楽しい想い出を綴っている。
どこにも売ってやしない、足で稼いだ情報達。
地図は僕にとって、大切な宝物なんだ。

　僕は日本をもう何周まわろうとしているんだろう？
一度しか訪問していないのは沖縄だけで、その他の場所は、車やオートバイで
何度も足を運んでいる。
以前訪れたかすかな記憶を頼りに再訪してみると、新しく道が出来ていたり、
景色がすっかり変わってしまっていたりもする｡
雨の日に訪れた場所も、晴れた日にまた行ってみると、全く異なる景色に
出会えたりもする｡季節が異なればそれはなおさらだ。

　子供の頃、僕のランドセルには社会科の地図がいつも入っていた。
この道はどこにつながっているか知りたくて、授業中僕は地図ばかり眺めていた。
どこか遠くへ行きたくて、僕は眠る前にも地図ばかり眺めていた。
大きくなってもそれは変わらなかった。
いつからか、もう一度あの場所に行きたいと思うようになってきた。

　あの峠で出会った人達は元気かな？
　あの道はもうつながったかな？
　あの宿はまだやっているのかな？
　あの景色は今も変わっていないかな？
　あの頃僕は何をしていたのかな？

　地図の１ページを開くのは、いつも僕の住んでいる場所からだった。
一枚ずつページをめくってゆき、気が付くと、等高線の入り組んだ山間部で
僕の地図は折り目が付いていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〜April 2005　　Ｓ★ＭＯＴＯ〜