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『 Another Side からの手紙　＃１５ 』

　　「さ　く　ら　峠」

　僕が出会ったちいさな花、そのつぼみ。
いつの頃からか、僕はその花が大好きになっていました。
いつの日からか、僕はその微笑みに心揺れ動いていました。

　僕はその花を持ち帰り、自分の家のベランダに植えかえたいと思うようになりました。
僕のそばで優しい花を咲かせて欲しいと願っていました。
でも僕はそれをすることができませんでした。
僕はただ、冷たい雨に打たれていないだろうか？
暑い陽射しに焦がされていないだろうか？
吹きつける雪に凍えていないだろうか？
いつも遠くから見守っているだけだった。
僕が手にとってしまえば、壊れてしまいそうで。
僕が触れれば、手のひらからこぼれてしまいそうで。

　人というのは、欲しいものを全て手に入れちゃいけないときがあったりするんだ。
願い事が全てうまくかなわないときだってあるんだ。
さみしい想いを心にしまって、歯を食い縛り明日を守らなければならないときだってあるんだ。
きっと。

　小さなトンネルを抜けると、僕の街を見渡す丘がある。
春になれば薄桃色の花びらが、暖かな陽射しの中で輝きはじめる。
僕はその丘を通るたびに思い出す。
僕はその丘を通るたびに振り返る。
僕の知らないずっと遠い場所で、今も優しい花を咲かせていてくれてるだろうか？

　ふと気がつくと、僕の街にも暖かい陽射しが訪れていた。
ここを離れてゆく人、ここに居残る人。
僕が決めることはできないけれど、
ただその季節がやってくれば、僕は遠くからいつも君を思い出す。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〜March 2006　　Ｓ★ＭＯＴＯ〜