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『 Another Side からの手紙　＃１９ 』

　　　　「　宵のとき　」

　僕が好むビバーク・ポイントは、景色の開けた高原や芝のサイトよりも、
木々に四方を囲まれた林間の木陰の方が心落ち着く。
森の中で土はとても暖かく、木の葉は陽射しを和らげてくれる。

　日のある内から三角テントを設営し、僕はねぐらを確保する。
夕食の支度で一番好きなのは、ハンゴウでご飯を炊くことだ。
強火で熱せられたハンゴウは、蒸気を噴出しながらボコボコと沸騰を始める。
僕は火加減を一定に保ちながら、そっと耳を澄ましているのだ。
あるときを境に、小さなチリチリと鳴く音を聞き逃さないためだ。

　僕が飯炊きに夢中になっていると、辺りは少しずつ薄暗くなってゆく。
青い宵のときが訪れる、野鳥たちはねぐらに帰ってゆく、焚き木の煙が昇ってゆく。
僕の目に差し込む光はほんのわずかとなり、辺りの陰影が際立ってゆく。

　僕が野営を好きになったのは小学校の頃からになる。
夏休みに学校のグラウンドにテントを設営し、みんなでキャンプを行った。
途中から雨になったので、生徒は全員体育館で寝ることになったのだが、
僕は夜中にこっそり毛布を持ってテントの中に潜り込んでいた。
初めて眠るテントの中、雨の音にドキドキしながら僕は朝を迎えていた。

　小さな頃から、いつかは静かな森で一人眠りたいと願っていた。
薄いテントの中で、スリーピング・バックに潜り込むと、
寝心地のいい場所を探しながら、僕はいつもその頃を想い出す｡


　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〜May 2006　　Ｓ★ＭＯＴＯ〜