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『 Another Side からの手紙　＃２３ 』

　「炭鉱の中のカナリア」を知ってるかい？
群衆が一獲千金の夢を追いつづけていた頃、鉱山で働く鉱夫たちは、
炭鉱の中にカナリアを入れた鳥篭をいっしょに連れて行ったらしい。
暗い穴の中、有毒ガスの発生や酸素濃度が薄くなると、真っ先に敏感な
篭の中のカナリアが騒ぎ始める｡
鉱夫たちは、環境変化に敏感なカナリアの動きを見て危険を察知していたようだ。
僕は１０代の頃この話を、時代の変化に敏感なロック・アーティストのことを、
炭鉱の中のカナリアのようだと書かれた記事を見て始めて知ることになる｡

　先日、僕のオフィスに転送された小包が届けられた。
それは知人からのギフト・ボックスだった。
中には僕の見逃していた、ボブ・ディランのドキュメント・ムービーが梱包されていた。

　　　　ロックは語るな、ディランを見ろ
　　　　だって、ディランがロックだから

　近頃僕は、少し地下に閉じこもってばかりいたのかも知れない。
見張塔へ登る階段を、途中であきらめてしまっていたのかも知れない｡
僕の表現する小さな言葉の断片を見て、きっとそのことをキャッチしてくれたのだろう。
彼女は僕にとって、親愛なる友達。
そして「炭鉱の中のカナリア」のような存在。
僕の表現することに対し少しだけニヤッと微笑んでくれて、
僕が足踏みをしているときには敏感にＳＯＳを察知してくれる｡

　僕は長く降り続いた雨の上がった夜空を見上げていた。
小さな石コロを蹴飛ばしてみると、夏の夜風に乗って、
８分の１拍子遅れたアル・クーパーのオルガンが聴こえてきた。
やっと僕の心の中で、開演のブザーが大きく鳴り響き始める。
１０年前のそよ風が、僕の頬をやさしく通り過ぎて行った。
少しずつ風向きは変わって行く・・・。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〜July 2006　　Ｓ★ＭＯＴＯ〜