『 Another Side からの手紙 #26 』

 どれくらい昔のことだろう、もう10年程前になるだろうか。
僕は敬愛するロック・アーティストのコンサートに出かけていた。
隣の席には同じく彼のファンである意気投合した友達が座っていた。
彼女は小脇に花束を抱えている。
僕たちは最前列でその輝くステージを見上げていたんだ。

 東京、夜、コンサートの終盤、そのチャンスは訪れた。
彼女はステージに駆け寄り花束を差し出した。
ホールを埋め尽くす観衆から歓声が湧き上がる。
ステージ上の彼は、少し驚いたようなジェスチャーをしてから花束を受取った。
それは僕にはとても長い時間にさえ感じられた。

 彼は10代の頃より憧れ続けた僕の中のカリスマ。
そんな彼のステージを最前列で観れることで僕は舞い上がっていた。
それよりも嬉しかったのは、彼女が花束を手渡し握手出来たことだ。

 子供たちはみんな例の金色の輪をつかもうとしているんだ。
 (金色の輪をつかまえると無料でもう一度乗れる。)
 フィービーもやっぱし同じことをやってたんで、僕は木馬から
 落ちやしないかと心配でなくもなかったけど、何も言わず、
 何もしないで、黙ってやらせておいた。
 子供ってのは、かりに金色の輪なら輪をつかもうとしたときには、
 それをやらせておくより仕方なくて、なんにも言っちゃいけないんだ。
 落ちるときには落ちるんだけど、なんか言っちゃいけないんだよ。

 きっと僕はこのホールデンと同じ気持ちだったのだろう。
なんだか数歩後ろからその光景を眺めているだけで僕は嬉しかった。
それはまるで自分の事のようにも思えてならなかった。
また僕たちは新しいゴールデンリングを手に入れていた。
いつもの場所で いつもの約束で、幸せな唄を聴きながら。

 あの花束はデイジーだったのだろうか?
今度彼女に逢うことがあったらそっと尋ねてみよう。



                    〜September 2007  S★MOTO〜