『 Another Side からの手紙 #45 』



 10代の多感な頃、僕は敬愛する先輩から一冊の本を借りていた。
その本の主人公は「ホールデン」と言う少年だった。

 その頃の僕は、進学もせず、就職もせず、当時で言うフリーターに属していた。
毎日アルバイトをしながら、好きな音楽を聴き、好きな事を続けていた。
今でもその好きな事は変わらず続いている。

 「ライ麦畑でつかまえて」は、今では書店の片隅に追いやられてしまっているが、
時代を超えても色褪せない素敵な小説だと僕は思う。
世間から「イカレタ奴」とレッテルを貼られたこの主人公には、人には理解されない
優しさが満ち溢れている。全てのインチキに反吐を吐いている様は、
くだらない恋愛小説や、教科書で紹介される小説なんかよりずっといい。

 僕がこの本を好きになったのは、主人公が僕にとてもよく似ていたからだ。
大人の言うことなんて信じられない、と僕もいつも思っていた。
もし、ホールデンが実在する人物だったら、僕はすぐにでも会いに行くだろう。

 僕は大切に思う人に出会う度に、この本をプレゼントしてきた。
僕の手元にあるものはもう何冊目かになる。
先日、この本を再び手にとってみたが、読みかけて少し躊躇した。
はたして僕はあの頃と同じ気持ちで読むことが出来るだろうか?


 世の中に愛想笑いしている大人達にこの本を捧げる。
つまらない大人にならないように。

 

                    〜December 2012  S★MOTO〜