『 Another Side からの手紙 #47 』



【 Film No Damage 】

客席のダウンライトが消灯されると、一人の男がホテルの一室で裸で立っていた
1983年、27歳、若かりし頃の佐野元春だ
彼がニューヨークに旅立つ前に残していったロック・ドキュメンタリー・フィルム
公開から30年、デジタル・リマスタリングされ今回期間限定でロードショーされた

1983年、ちょうどその頃、僕はまだ中学生
大好きな年上の女性から一通の手紙をもらっていた
その中に佐野元春のことも書かれていた
僕が佐野元春を知ったのは彼女のおかげ、そして彼がこのフィルムを残していった頃だった

このフィルムには80年代初期の佐野元春とツアーを共にしたザ・ハートランドの楽屋風景や
スタッフのドキュメントが記録されている
初代ギタリストの伊藤銀次さんももちろん登場している
僕がコンサートに初めて行ったのはカフェボヘミア・ミーティングからだから
大きなスクリーンで、飛び跳ねている当時の銀次さんを観れるのはとても嬉しい
しかも先日お会いすることが出来、30年前の僕には想像もつかなかったことだろう

フィルムの中には懐かしい曲がたくさん流れてきた
どの曲も僕が多感な頃に聴いていた曲ばかりだ
それぞれの曲に色々な想いがたくさんつまっている
後に参加するコンサートにも良く似たステージ・パフォーマンスがあり
あのパフォーマンスはここから始まっていたのかと思える場面もあった

このフィルムを観ながら僕は当時の僕を今日まで振り返っていた
彼の曲と共に僕も少しだけ成長し大人になった
「つまらない大人にはなりたくない」と言う彼の唄う言葉が
10代の頃よりずっと僕の中のテーゼになっていた
今の僕はどうだろう?
つまらない大人になってはいないだろうか?
もし10代の僕に会えるなら、そっとそのことを尋ねてみたい


                    〜September 2013  S★MOTO〜