Ｖｏｌ．８
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『 紅い薔薇、白い薔薇 』
紅い薔薇を君に渡して
白い薔薇もそっと添えて
通りを歩いてゆこう
街の公園から墓地の丘まで
歩幅を整えゆっくりと
フラットから聴こえてくる
きしむバイオリンや
雑居ビルに群がる
ブラックバード達
僕はスキップをしながら
人ごみをすり抜けていた
もしあの唄が届かなかったら
僕は日常に打ちのめされていた
もしあの唄を聴くことがなかったなら
僕はまだ眠りの中だった
街に夜が訪れると
空から天使達が舞い降りて
街路樹を照らす星屑と
遠くから聴こえるベルの音
かかとのすれたスペイン革ブーツ
降り積もる雪にすっぽり埋って
僕の足跡は
交差点の向こうまで続いている
僕は口笛を吹きながら
通りの角を曲がって行った
もしあの唄が届かなかったら
僕は日常に打ちのめされていた
もしあの唄を聴くことがなかったなら
僕はまだ眠りの中だった
赤い包みに緑のリボン
僕は小脇に抱え街を歩いている
心のドアをノックして
いくつもの夜をくぐり抜け
僕は今も僕のままさ
いつも変わらない
君もずっと君のままさ
きっと変わらない
僕は街角で夜空を眺め
月に祈りを捧げていた
もしあの唄が届かなかったら
僕は日常に打ちのめされていた
もしあの唄を聴くことがなかったなら
僕はまだきっと深い眠りの中だった
〜街のサンタへ〜
『 とても空が晴れた朝だった 』
誰かがどこかで言っていた
「愛」は化粧品を売るためのキャッチコピーに
「平和」は戦争をしかけるための口実に
空には人工衛星が飛びまわり
街では青い素子が光り輝く時代になっていた
カルシウムが不足していた
自律神経が一人歩きしていた
ストレスに押しつぶされそうな連中は
匿名で他人を非難中傷しはじめた
言葉が凶器に変わっていった
古いモノクロ・ムービーを観ていた
プラカードが次々とめくられて
「パーキングメーターから目を離すな」
「マンホールに飛び込んでローソクをつけろ」
アレン・ギンズバーグが覗いていた
大切なメモをなくしてしまった
どこかにしまっておいたのに
部屋中をひっくりかえしても見つからなかった
しばらくほうっておいたから
きっといつからか歯車がはずれてしまっていた
僕はいつも自由な時がほしかった
僕は少しでも一人の時間がほしかった
ある朝目が覚めてみると
本当に一人ぼっちになっていた
とても空が晴れた朝だった
『 すべては雨の週末に 』
きっとうまくいくよ
僕はその言葉を残し
西に向かう列車に乗っていた
とびきりの笑顔で彼女は
東の街に向かい
うれしい知らせも届かなかった
僕は届かない手紙を書き綴り
ポストに投函する前に
プラットホームの片隅に
投げ捨ててしまった
西に向かう列車の窓から
雨に煙る噴水が見えた
あたりまえの事だが
白鳥たちは舞い降りていない
４０偏のショート・ストーリー
白いスニーカーの紐を
ブラックベリーで
紫に染める彼女
僕を助けてくれた
友達の一人は
海を渡り
南の島に旅立ってしまった
すべては雨の週末に
書き留めたちっぽけなストーリー
『 桜の花の咲く頃に 』
１０年たっても空が青いといいな
１０年たっても風が吹いているといいな
１０年たっても犬が走り回っているといいな
１０年たっても灯りが燈されていればいいな
１０年たってもあの丘で
桜の花の咲く頃に
１０年たっても君が笑っているといいな
１０年たっても君が照れているといいな
１０年たっても君が頑張っているといいな
１０年たっても君とまた会えるといいな
１０年たってもあの丘で
桜の花の咲く頃に
１０年たっても僕は僕でいたいな
１０年たっても僕はここにいたいな
１０年たっても僕は忘れたくはないな
１０年たっても僕を覚えていてほしいな
１０年たってもあの丘で
桜の花の咲く頃に
１０年たったら君の寂しさが消えているといいな
『 蝉の鳴きやむ時まで 』
僕は詩人じゃないから
人を勇気付けることはできないな
僕は写真家じゃないから
素敵な景色を描くことはできないな
僕は旅行者じゃないから
ガイドブック通りに行くことはできないな
僕はライターじゃないから
期日までに仕上げることはできないな
僕はリーダーじゃないから
みんなをとりまとめることはできないな
僕は評論家じゃないから
人にケチをつけたりはできないな
僕は先生じゃないから
全てに答えることはできないな
誰かがやさしく微笑んでくれればいいな
誰かが遠くで見てくれてればいいな
誰かが同じ道を走ってくれればいいな
誰かがずっと待っていてくれたらいいな
誰かがちょっと知っていてくれればいいな
誰かがきっと理解してくれればいいな
誰もがあまり干渉してこなければいいな